HIFI日記:主要なデジタル音声フォーマットと技術の基本解説
HIFI入門から沼の果てまでシリーズ
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本稿は基礎的な入門解説記事です。こちらもブログ主の身近に最近オーディオの世界に足を踏み入れた友人がおり、基礎的な概念をしばしば混同していることに気づいたため、彼に解説した内容をベースに分かりやすく整理して書き留めたものです。
1、可逆圧縮(ロスレス)について
私たちは普段、CDクオリティ(16bit/44.1kHz)に達した音質を「ロスレス(無損)オーディオ」と呼び慣れていますが、実のところこの概念が意味するのは「CDに本来記録されていた情報を欠落なく(無損失で)保持しているか」ということであり、「録音現場の生の音を一切の損失なく完全に再現できているか」という意味ではありません。CD規格も登場から長い年月が経過した古い規格であり、現在では肥えた耳を持つオーディオファンの要求を到底満たしきれなくなっています。
そして、より高精度なサウンドへの探求に伴い、さらなる高音質と情報量を誇る規格が登場しました。その代表格として広く認知されているのが「Hi-Res(ハイレゾ)」規格です。CDの音声スペックを上回る音源すべてがこの体系に包含されており、中でも特に一般的なのが88.2kHz/24bit、96kHz/24bit、192kHz/24bitという3つのサンプリング仕様です。
しかし、旧来のCD規格であれ最新のHi-Res規格であれ、真の意味での「無損失(完全なロスレス)」と呼ぶのは困難です。現実世界の生きた音は無限の広がりと変化を持っており、デジタルオーディオはどこまでいっても現実に極限まで近づく近似値に過ぎず、現実の音そのものには決してなり得ないからです。
2、音声エンコードフォーマット
各種音声フォーマットを説明する前に、私たちが日常的に触れていながら意外と詳しく知られていない2つの根本的な方式、すなわち「PCM」と「DSD」について解説しておきましょう。
PCM(Pulse-Code Modulation、パルス符号変調)は、現在最も広く普及している音声エンコード方式です。日常で目にする大半の音声フォーマット(MP3、FLAC、WAVなど)は、実質的にすべてPCM方式に基づいています。これらおなじみのフォーマットは、いわばPCM信号を包む「外殻(コンテナ)」に過ぎず、その中身(コアデータ)はPCMそのものです。適用されている圧縮技術の違いによって、MP3やFLACといった異なる姿になっているだけなのです。そして私たちが普段口にする「デコード(復号)」とは、実質的にFLACやMP3などの圧縮形式を展開してPCM信号へと復元する処理を指します。
DSD(Direct Stream Digital、ダイレクト・ストリーム・デジタル)は、ソニーとフィリップスが1996年に共同開発を発表したハイレゾデジタルオーディオ規格です。1bitのビットストリーム方式でサンプリングを行い、サンプリング周波数は2.8MHz(基本規格)に達する高ビットレートのエンコード方式です。PCMと同様にDSDにも独自のコンテナ形式が存在し、代表的なものとしてDSF、DFF、DSTの3種類があります。このうちDSFとDFFは非圧縮、DSTは可逆圧縮(ロスレス圧縮)に分類されますが、本質的な音質差はほとんどありません。
PCMとDSDには技術的な登場時期の前後関係はあるものの、実際の音質性能そのものに絶対的な優劣はありません。DSDは基本スペックの基準値が高いため、高レートのDSD音源とCDスペックのPCM音源を比較すれば当然DSDが有利になりますが、PCM側にもHi-Res級のハイエンド音源が存在するため、ハイレゾPCMとDSDの比較であれば決して引けを取りません。ただし、PCMとDSDではレコーディングやマスタリングのプロセス自体が根本から異なるため、出音のサウンドキャラクターにはそれぞれの傾向が現れますが、それは本稿のテーマから外れるため割愛します。
3、主要な音声フォーマットの分類
先ほどMP3、AAC、OGG、CDA、FLAC、APE、WAV、DFF、DSF、DSTなど数多くのコンテナ形式を挙げました。以下にそれぞれの特性に基づいて分かりやすく分類し、全体像を整理してみましょう。
非可逆圧縮(不可逆圧縮):MP3、AAC、OGG
可逆・非圧縮(リニア):WAV、CDA、DFF、DSF
可逆・圧縮(ロスレス):FLAC、APE、DST
このように、ロスレス音源の中にも「圧縮あり」と「非圧縮」が存在します。これは主にネットワーク上でのデジタル音声データの伝送やストレージ効率を高めるために開発された技術です。例えば同一のPCM音声データであっても、FLAC形式でロスレス圧縮を施すことでWAV形式よりもファイル容量を大幅に削減できます。これこそが、FLACが現在最も主流なロスレスオーディオフォーマットとしての地位を確立した最大の理由です。
4、MQAとは何か
近年、MQA(Master Quality Authenticated)という規格が大きな注目を集めました。先進的でハイエンドな新技術として喧伝され、多くのオーディオファンがMQA再生に対応したDACを探し求めるようになりました。では、MQAとは一体どのような技術なのでしょうか。
MQAは「Master Quality Authenticated」の略称で、英国Meridian(メリディアン)の共同創業者であるボブ・スチュアート(Bob Stuart)氏が主導して開発した音声エンコード技術です。概念として、MQAは純粋なPCMそのものでもなければ、FLACやMP3のような単なるコンテナ形式とも異なります。その本質は「ハイレゾPCMデータを独自のアルゴリズムで圧縮し、FLAC等のコンテナに格納する技術」です。MQAがキャリア(媒体)としてFLACを採用した主な理由は、FLACがオープンソースかつライセンスフリーであり、余計なライセンス費用を負担せずに済むためでした。

MQAファイルは主にFLAC形式でパッケージングされ、MQA独自の「折り紙(Music Origami)」と呼ばれるフォールディング技術によって、ハイレゾ音源の超高域成分を高効率に圧縮格納し、最終的なファイルサイズを極めてコンパクトに抑えています。分かりやすい例を挙げると、非圧縮のハイレゾWAV音源が100MBあるとすれば、同一音源をMQA技術で圧縮したFLACファイルは約50MBと、容量を半分近くまで削減できます。またMQAのもうひとつの利点は、お使いのDACがMQAのフルデコード(展開)に対応していなくても、通常のCDクオリティ(16bit/44.1kHz)のロスレス音源としてそのまま再生できる互換性を備えている点にあり、ユーザー側でわざわざトランスコードする手間を省けます。
したがって、MQAは決して魔法のような超越的技術というわけではなく、ネットワークストリーミング時代において「限られた通信帯域」と「大容量のハイレゾ音源ファイル」の間に生じるトレードオフを解消するために生み出されたソリューションに過ぎません。しかし、その恩恵と引き換えに支払う代償は極めて大きいものでした。
第1に、MQAはISO等の公的な国際標準規格ではなく、実質的に恩恵を受けるのはハイレゾ音楽配信プラットフォーム側に偏っており、より上流である実際の音楽制作・録音・フィジカルパッケージの現場にはほとんど寄与しません。第2に、MQAの完全な展開には専用のハードウェアデコーダーが必要となり、すでに高額なDACを所有しているオーディオファンであっても、MQAを体験するために機材の買い替えを迫られるケースが多発しました。しかもこの多大な投資は、音質の絶対的な向上をもたらすものではなく、単にストレージ容量や通信帯域を節約しただけに過ぎません。
一部のメーカーやプロバイダがMQA技術を大々的にアピールしてきましたが、本質的には圧縮伝送技術に過ぎず、マスター音源本来の音質を上回るような改善効果はありません。例えば音楽ストリーミングサービスのTIDALでは、高ビットレートのロスレスFLACとMQAの両方を選択肢として提供していましたが、通信帯域に余裕がある環境であれば、MQAデコード対応DACの有無にかかわらず、オリジナルのロスレス音源をそのまま伝送・再生する方が遥かに合理的です。
それでは、今回の入門解説はここまでとなります。オーディオを始めたばかりの皆様の疑問解消に少しでもお役に立てれば幸いです。オーディオ(HiFi)とは極めて厳密な科学の積み重ねです。憶測やオカルトに惑わされることなく、検証と思索を重ねながら豊かなオーディオライフを歩んでいきましょう。

