
HiFi日記:HQPlayerフィルター設定詳解
この記事は、以前投稿した「HQPlayerディザー設定詳解」と対になる、もう一つのチュートリアルです。そして、HQPlayerの設定紹介シリーズの最終回となります。ぜひブックマークしておくことを強くおすすめします。今後HQPlayerにアップデートがあった場合、この記事も追って更新していく予定です。
一、フィルターとは何か?
まず、HQPlayerの核となる機能、高品質な**サンプルレート変換(Sample Rate Conversion, SRC)**について説明します。SRCは、入力されたオーディオのサンプルレート(例:44.1kHz, 48kHz)を、より高いサンプルレート(例:192kHz, 384kHz, 768kHz、またはDSD 128, DSD 256, DSD 512など)に変換し、DACに送り出すプロセスです。この過程でどのフィルターを選択するかは、最終的な音質に非常に大きな影響を与えます。フィルターの違いは、主に以下の特性に作用します。
1. 周波数特性の精度 (Precision of Frequency Response)
理想的なローパスフィルター(リサンプリング時に元の信号の高周波成分を除去し、エイリアシングを防ぐためのもの)をどれだけ正確に実現できるか、という指標です。より精密なフィルターは、一般的に「クリーン」で「透明感」のあるサウンドを提供します。
2. 時間領域特性 (Time Domain Characteristics)
フィルターが信号のトランジェント(音の立ち上がりや立ち下がり)をどのように処理するか、という特性です。これはフィルターの位相特性やインパルス応答の長さに密接に関連しています。
2.1. 線形位相 (Linear Phase)
異なる周波数の音の成分がフィルターを通過する際に、それらの相対的な時間関係が保たれます。これにより、元の録音の空間表現やトランジェントの「形」が維持されやすくなります。しかし、線形位相のFIRフィルターは、メインパルスの前に左右対称の「プリリンギング」を発生させます。
2.2. 最小位相 (Minimum Phase)
同じ振幅特性を持つフィルターの中で、遅延が最小になるように設計されています。異なる周波数成分の相対的な時間関係を変化させる(非線形な位相歪みを引き起こす)代わりに、プリリンギングが発生しません。メインパルスの後には「ポストリンギング」が生じます。ブログ主個人としては、最小位相(Minimum Phase)のサウンドの方が好みです。より滑らかで自然な繋がりを感じさせてくれます。 この設定はHQPlayer上のオプションではなく、DACハードウェア側で行うものですが、HQPlayerのフィルターがDACの位相設定を補完し合う関係にあることを理解していただくため、ここで解説しておきます。
2.3. インパルス応答の長さ (Impulse Response Length)
フィルターの「長さ」は、時間領域で信号に影響を与える範囲を決定します。長いフィルターは、より急峻で正確な周波数特性を実現でき、リンギング(プリ/ポスト問わず)をメインパルスから遠く、エネルギーが低く、聞こえにくい領域に追いやることができます。しかし、長いフィルターはより多くの計算リソースを必要とし、遅延も大きくなります。短いフィルターはその逆で、計算量が少なく遅延も小さいですが、周波数特性の精度が若干劣り、リンギングがメインパルスに近く、エネルギーも比較的高くなる可能性があります。
二、HQPlayerのフィルター紹介
I. 汎用オプション
- none:
- 解説: いかなる処理も適用しません。
- 用途: フィルタリングやリサンプリング(SRC)を一切行いません。この「素の音」が好きだというオーディオファイルもいます。アップサンプリングしない場合にのみ選択肢となり得ますが、正直なところあまりおすすめはしません。
- IIR/IIR2:
- 解説: Infinite Impulse Response(無限インパルス応答)フィルター。
- 特徴: IIRフィルターは一般的に計算効率が高いですが、非線形な位相歪みを引き起こす傾向があります。このため、音のトランジェントや空間表現が変化し、線形位相のFIRフィルターほど自然で正確なサウンドには聞こえないかもしれません。
- 用途: 計算負荷を低く抑えたい場合や、DSP調整を加えたい場合に使われることがありますが、HQPlayerの主な用途とは少し違うかもしれません。
- FIR:
- 解説: Finite Impulse Response(有限インパルス応答)フィルター。
- 特徴: 線形位相を実現できるのが特徴ですが、計算量はIIRより大きくなるのが一般的です。HQPlayerの高品質なpoly-sincシリーズフィルターの基礎となっています。
- 用途: 線形位相FIRは正確な空間表現とトランジェントを提供する傾向がありますが、規格としては古く、後発のpoly-sincシリーズの方が選択する価値は高いでしょう。HQPlayerにこのオプションがあるのは、網羅性を高めるためだと思われます。
- asymFIR:
- 解説: Asymmetric FIR(非対称FIR)フィルター。
- 特徴: 標準的な線形位相FIRフィルターは対称なインパルス応答を持ちますが、非対称FIRにはその制約がありません。最小位相フィルターや、その他の非線形位相の応答を実現するために使用できます。
- 用途: かなり特殊なフィルターで、ブログ主もパッと思いつく用途がありません。
- minphaseFIR:
- 解説: Minimum Phase FIR(最小位相FIR)フィルター。
- 特徴: 位相遅延を最小にすることを目標に設計された特殊なFIRフィルターです。線形位相を犠牲にする代わりに、より低い遅延を実現します。
- 用途: 遅延に非常に厳しい要件がある場合や、最小位相のサウンドを好むオーディオファイル向けです。
- FFT:
- 解説: Fast Fourier Transform(高速フーリエ変換)。
- 特徴: FFTは信号を時間領域から周波数領域へ(またはその逆へ)変換するためのアルゴリズムです。それ自体はフィルターの種類ではありませんが、フィルター処理(例:周波数領域での乗算による畳み込み)や、その他の周波数領域での処理に利用されます。
- 用途: 一般的に測定やキャリブレーションなどの場面で使われ、音楽鑑賞とはあまり関係ありません。
- ASRC:
- 解説: Asynchronous Sample Rate Converter(非同期サンプルレートコンバーター)。
- 特徴: ASRCは、入力と出力のサンプルレートが正確な整数比である必要がありません。内部に独立したクロックを持ち、動的に変換プロセスを調整します。
- 用途: 同期していないクロックソースからのオーディオストリーム(例:トランスポートとDACがそれぞれ精度の異なるクロックを持ち、同期できない場合)を処理する際に、ジッターや歪みを低減させる効果が期待できます。
- polynomial:
- 解説: 多項式補間アルゴリズムに基づくリサンプリングフィルター。数学的な多項式関数を使い、元のサンプル点間の新しいサンプル点の値を推定します。
- 特徴: CPU負荷は低いですが、精度も低く、周波数特性の平坦性、遷移帯域の急峻さ、阻止域の減衰量といった点で劣る傾向があります。
- 用途: このシリーズも、どちらかというと互換性や特殊なテスト目的の「数合わせ」的な存在に感じます。
- minringFIR:
- 解説: "minring"は"Minimum Ringing"(最小リンギング)を意味します。このフィルターの核心は、時間領域でのリンギング現象(プリ/ポストリンギング)を最大限に抑制することです。特殊なアルゴリズムを用いて線形位相フィルターを生成し、リンギングを最小限に抑えつつ、多項式補間よりも優れた周波数特性と減衰を実現します。
- 特徴: リンギングを減らすということは、つまりトランジェント特性に優れるということです。特に打楽器やピアノなどの表現に良い効果をもたらすことが多いです。整数倍のアップサンプリング(例:44.1→88.2→176.4、または48→96→192など)でのみ使用可能です。
- 用途: 楽器演奏に適していますが、音が鋭い電子音楽などにもマッチします。
II. Poly-Sinc シリーズ
Poly-SincシリーズはHQPlayerのSRCフィルターの中核であり、Sincフィルターをベースに、「Polyphase(多相)」という特定の高効率な実装構造を用いています。現在HQPlayerで最も一般的に使われ、音質的にも最高のフィルター群と言えるでしょう。Poly-Sincは種類が非常に多いため、一つ一つ紹介するのは現実的ではありません。そこで、ブログ主はこれらのフィルターをどのように理解し、見分けるかに焦点を当てて解説します。これが分かれば、最終的な選択がずっと楽になるはずです。まずは、Poly-Sincシリーズの命名規則を学びましょう。
例: poly-sinc-xtr-short-mp
このフィルター名は、poly-sinc
(シリーズ名)、xtr
(特殊特性)、short
(長さ特性)、**mp
(位相特性)**の4つの部分で構成されています。「シリーズ名」「長さ特性」「位相特性」の位置は固定で、必ず表記されます(「長さ特性」が標準の場合は空欄になります)。一方、「特殊特性」は付いている場合と付いていない場合があります。
特殊特性には、Poly-Sinc Halfband (-hb)、Poly-Sinc Extended (-ext)、Poly-Sinc MQA/MP3、Poly-Sinc XTR、Poly-Sinc Gaussian (-gauss) といったシリーズが含まれます。
1. 位相特性
- -lp (Linear Phase):
- 解説: 線形位相。
- 特徴: 一般的に「ニュートラル」「正確」「透明」な選択肢と見なされます。録音の空間情報や音場の深さを忠実に再現します。トランジェントは自然ですが、理論上プリリンギングが存在します。
- 用途: より高い解像度や性能を求める場合に選ばれますが、聴き疲れしやすかったり、リンギングによる歪みが気になる可能性もあります。
- -mp (Minimum Phase):
- 解説: 最小位相。
- 特徴: 「ダイレクト」「エネルギッシュ」「インパクトがある」サウンドに聞こえることが多いです。トランジェントはよりシャープで際立ちます。プリリンギングはなく、ポストリンギングのみです。アナログ機器に近い音だと感じる人もいます。
- 用途: より滑らかで自然なサウンドを求める場合に選ばれますが、性能面では若干劣る可能性があります。
- -ip (Intermediate phase):
- 解説: 中間位相。
- 特徴: 線形位相(lp)と最小位相(mp)の中間的な聴感、あるいは独特なトランジェント特性を持ちます。
- 用途: 上記2つの中間的なサウンド。ブログ主個人としては最も好みの位相です。
2. 長さ特性
- xs (Extra Short): 超短フィルター。
- 解説: インパルス応答が極めて短い。計算量が非常に少なく、遅延も極低です。周波数特性の遷移帯域は広く、リンギングはメインパルスに比較的近くなります。
- 特徴: 効率は最高で、CPUリソースへの要求は最低。音質的な犠牲は大きく、ディテールや空間表現が不足しがちです。
- 用途: 正直、あまり使い道がないように感じます。全フィルターを網羅するために存在しているのかもしれません。
- short / s: 短フィルター。
- 解説: インパルス応答が短い。計算量が少なく、遅延も低い。周波数特性の遷移帯域は広く、リンギングはメインパルスに比較的近いです。
- 特徴: 長いフィルターほど「クリーン」で「高解像度」には聞こえないかもしれません。高域の伸びや空間表現もやや劣る可能性があります。しかし、トランジェントはより「速く」感じられ、CPU負荷も軽いです。
- 用途: CPU性能が低いマシン(Raspberry Piなど)向け、あるいはlong特性が滑らかすぎて、ざらつき感(アナログ感)が足りないと感じるオーディオファイル向けです。
- (m / 無印): 標準長。
- 解説: shortとlongの中間で、最も標準的なバージョンです。
- 特徴: これといった特徴はありませんが、パフォーマンスの負荷も低いです。
- 用途: 長さ特性に特にこだわりがなければ、これを選ぶのがベストかもしれません。
- long / l: 長フィルター。
- 解説: インパルス応答が長い。計算量が大きく、遅延も高い。周波数特性の遷移帯域は急峻で、リンギングはメインパルスから遠く、エネルギーが極めて低い場所に追いやられます。
- 特徴: 一般的に、より「クリーン」「透明」「ディテール豊か」「空間表現に優れる」サウンドを提供します。高域はより自然に伸び、背景はより「黒く」なります。
- 用途: CPU負荷は上がりますが(とは言え、そこまででもない)、音質も向上します。
- xl / xla (Extra Long/Apodizing extra long): 超長フィルター。
- 解説: longよりもさらに長い。計算量と遅延もさらに高くなります。
- 特徴: longをベースに精度をさらに向上させ、理論上は究極の透明度とディテールを提供しますが、システムへの要求はより高くなります。
- 用途: longとの違いは聞き分けられないかもしれません。CPUへの負荷はかなり大きくなるため、ハードウェア性能が十分でないと、たとえスムーズに再生できても音質が逆に低下する可能性があります。
3. 特殊シリーズ
これらの特殊シリーズのフィルターはすべてApodizing(アポダイジング)フィルターです。デジタル信号処理、特にデジタルフィルターやリサンプリングにおいて、アポダイジングは、初期の、あるいは設計の良くないA/Dコンバーター(ADC)やマスタリング工程のデジタルフィルターによって生じた欠陥を修正・軽減する能力を持ちます。より正確に言えば、録音に含まれるプリリンギングや帯域内エイリアシングを修正することができます。これは、元の信号のナイキスト周波数(CDなら22.05kHz)に近い領域から、より早く、より緩やかに周波数特性をロールオフさせることで実現されます。オーディオファイルの方々にとっては、この種の特殊フィルターは古い録音(80年代/90年代)に対してより良い効果を発揮する、と覚えておけば十分です。
- Poly-Sinc Halfband (-hb) シリーズ (ハーフバンドフィルター)
- 解説: ハーフバンドフィルターは、正確な2倍のアップサンプリングまたは1/2倍のダウンサンプリングを効率的に行うために設計された特殊なFIRフィルターです。係数の約半分がゼロであり、対称性を持つため、計算効率が非常に高いのが特徴です。カットオフ周波数は、新しいサンプルレートのちょうど1/4(ダウンサンプリングの場合は元のサンプルレートの1/4)に位置します。
- 特徴: 2倍または1/2倍のサンプルレート変換を行う際、汎用フィルターよりもCPU使用率がはるかに低く、音質レベルは通常のPoly-Sincとほぼ同等です。
- 用途: CPU性能に限りがあるが、高倍率のアップサンプリングを行いたい場合に優先的に採用できます。
- Poly-Sinc Extended (-ext) シリーズ (例: poly-sinc-ext, ext2, ext3)
- 解説: このシリーズは、HQPlayerにおける非常に長いタップ数(very long tap)を持つFIRフィルターを代表する存在です。タップ数は数百万以上に達することもあります。通常は線形位相で、強力なアポダイジング(strongly apodizing)特性を持ちます。
- 特徴: CPU負荷が極めて高く、全シリーズ中でおそらく最も透明度と解像度に優れたフィルターです。最も強力なアポダイジング効果を持ち、古い録音の修復能力が特に高いです。
- 用途: このシリーズの中では、ブログ主はext2のサウンドが最も良いと感じます。一般的にアポダイジングが強力なほど、アナログ的な味わいが濃くなります。個人の好みに応じて、常用フィルターとして使うことも十分可能ですが、CPUが耐えられるかを考慮する必要があります。
- Poly-Sinc MQA/MP3 シリーズ
- 解説: このシリーズは、非可逆圧縮フォーマット(MP3)や特殊なエンコード(MQA)を施された音源を処理するために特別に設計されたフィルターです。MP3に対しては、圧縮アルゴリズム(心理音響モデル、サブバンドコーディングなど)によって生じる特有の歪み(プリエコー、高域のカットオフ、量子化ノイズなど)を補正またはマスキングしようと試みます。MQAに対しては、その「折り畳み(folding)」と「展開(unfolding)」プロセスにおける特性(例:MQAデコード後に存在する可能性のある超音波帯域のノイズやエイリアシング)を最適化するように設計されているようです。(複雑すぎて、完全には理解できませんでした)
- 特徴: 非常にターゲットを絞ったフィルターで、使う人も少ないように感じます。HQPlayerでこれらのフォーマットを扱う機会も少ないでしょう。MQAは常にニッチなフォーマットであり、ブログ主自身もこの種の金儲け主義的なものには抵抗があるため、使う機会はほとんどないと感じています。
- 用途: おそらく、特定のハードウェア/ソフトウェア(例:Roonと連携してストリーミングサービスのMQA音源を再生する場合など)で効果を発揮するのかもしれません。(ブログ主の環境ではテスト不能です)
- Poly-Sinc XTR シリーズ (例: poly-sinc-xtr-lp, xtr-mp, xtr-short-lp/mp)
- 解説: このシリーズもEXTシリーズと同様、非常に長いタップ数を持つFIRフィルターであり、強力なアポダイジング特性を持ちます。
- 特徴: EXTシリーズと基本的に似ており、ブログ主も具体的な違いを見つけ出すことはできませんでした。
- 用途: EXTシリーズとは聴感上、ごくわずかな違いがありますが、基本的には性能を追求するタイプのフィルターです。個人的にはESSやAKM系のDACと相性が良く、R2R DACとはあまり合わないように感じます(Holo Audioの泉シリーズは除く)。
- Poly-Sinc Gaussian (-gauss) シリーズ
- 解説: このシリーズの核心は、理想的なSinc関数のインパルス応答に**ガウス窓関数(Gaussian window)**を適用している点です。ガウス窓は、時間領域と周波数領域の両方でガウス形状を持つことで知られており、これはリンギングが極めて少なく、非常に滑らかな遷移特性を持つことを意味します。
- 特徴: 自然で滑らか。EXTやXTRシリーズに比べると解像度はやや低く、高域もそれほど鋭くありませんが、アナログ的な味わいがより豊かで、聴きやすさも高いです。なお、このフィルターもCPUへの負荷は低くありません。
- 用途: ブログ主個人としては、Gaussシリーズは性能が少し物足りないように感じますが、これが許容できるかは人それぞれでしょう。このシリーズはHQPlayer公式が最も推奨しており、多くの人にとって十分な選択肢となるはずです。
III. closed-form シリーズ
- closed-form
- 解説: 多数のタップを持つ、閉形式解(closed-form solution)による補間フィルター。係数は直接的な数学的公式(閉形式解)から導出されます。「多数のタップ」という点から、2倍アップサンプリングのシナリオで、かなり良好な周波数特性を目指していることがわかります。
- 特徴: 「フィルター品質」(急峻さ、減衰量)は中程度でしょう。基本的な閉形式解であるため、「空間表現、音色、トランジェント」の精緻さでは、より複雑で最適化された設計には及ばないかもしれません。非常にシンプルな補間からの改善版という位置づけです。
- 用途: CPU負荷は低く、2倍アップサンプリングのシナリオでのみ使用可能です。
- closed-form-fast
- 解説: CPU負荷がより低い代わりに精度も低い閉形式解の補間フィルター。出力精度は約24bit PCMレベルに調整されており、2倍アップサンプリング専用です。
- 特徴: CPU負荷の低さが主な利点です。「低い精度」は、その「フィルター品質」が標準のclosed-formやより高度なフィルターほど理想的ではないことを意味します。
- 用途: 24bit PCMに出力し、非常に高速で低負荷な2倍アップサンプリングが必要で、かつ最終的な音の純度にある程度の妥協ができる場合に使用します。
- closed-form-M
- 解説: 100万タップを持つ閉形式解の補間フィルター。標準版よりも計算量が多く、より極端なバージョンです。
- 特徴: 基本的なclosed-formと比較して、このバージョンは明らかに優れた「フィルター品質」を提供するはずです。増加したタップ数により、2倍アップサンプリングにおいて、よりクリーンなサウンド、優れた分離度、そしてより正確な「空間表現」と「音色」がもたらされるでしょう。
- 用途: 間違いなくCPU負荷は非常に高くなります。2倍アップサンプリングのみが必要で、CPUパワーが十分あり、かつclosed-formシリーズの音が好きだという場合には、これが最良の選択となるでしょう。
IV. Sinc シリーズ
Sincシリーズはpoly-sincシリーズの基礎となるものです。ほとんどの場合、オーディオファイルはpoly-sincフィルターを直接選べば問題ありません。Sincシリーズのフィルターは、主に選択肢を補完する役割を果たしています。
1. Sinc-X シリーズ
- sinc-S
- 解説: タップ数が可変のSincフィルター。タップ数は「4096 × 変換比率」となります。非常に急峻なカットオフと高い減衰量を持ちます。これはSincベースのフィルターで、フィルター長(タップ数)がアップサンプリング比率に応じてスケールします(1xで4096タップ、2xで8192タップなど)。この可変長は、異なる整数比率でフィルター性能を維持するのに役立ちます。
- 特徴: 可変タップ数は一貫した急峻さと減衰量を目指すもので、整数倍のアップサンプリングでのみ使用可能です。
- 用途: CPU負荷は中程度。万能タイプのフィルターですが、技術的な観点から見れば最高ではありません。
- sinc-Ls
- 解説: sinc-Sの「平均的な減衰」バージョン。
- 特徴: 平均的な減衰特性は、ダイナミックレンジの広い音楽にはあまり適しておらず、大編成のオーケストラなどでは背景が十分に黒くないと感じるかもしれません。
- 用途: あまり使い道はないかもしれません。
- sinc-Lm
- 解説: sinc-Lsのよりタップ数が多いバージョンと見なせます。タップ数は可変(16384 × 変換比率)で、同様に平均的な減衰特性を持ちます。
- 特徴: sinc-Lsと同じで、大きな違いはありません。
- 用途: やはり、あまり使い道はないように感じます。
- sinc-LI
- 解説: sinc-Lmよりもさらにタップ数が多いバージョン。タップ数は可変(65536 × 変換比率)で、同様に平均的な減衰特性を持ちます。
- 特徴: 同上。
- 用途: このシリーズをどうしても使うなら、これを選ぶのが良いでしょう。
- sinc-M
- 解説: 100万の固定タップを持つSincフィルター。変換比率が上がるにつれて、その急峻さ(フィルターのロールオフ特性)は低下します。これは、同じタップ数がより広い周波数遷移帯域に分散されるためです。非常に急峻なカットオフと高い減衰量を持ちます。
- 特徴: このフィルターは非常に急峻で、優れた性能を提供します。比率が上がるにつれて、相対的な急峻さは減少します。
- 用途: 2倍または4倍の整数倍アップサンプリングに適しています。それ以上になると100万タップの利点が薄れてしまいます。その特性から、クラシック音楽に向いています。
- sinc-Mx
- 解説: sinc-Mの時間領域で一定の特性を持つバージョン。フィルター長は時間的に一定で、16倍のPCM出力レートで数百万タップに達します。sinc-Mxは変換比率に関わらず同じ急峻さを維持します。インパルス応答が時間的に一定の長さを保つため、タップ数は出力サンプルレートの増加に伴って増え、異なる変換比率でも一貫したフィルター形状(急峻さ)を維持します。
- 特徴: 異なる整数倍アップサンプリング比率で一貫したフィルター性能(急峻さ、減衰量)を発揮します。これにより、より予測可能で安定したサウンド特性が得られます。アポダイジングかつSincベースのフィルターとして、優れた空間表現、自然な音色を提供し、録音をクリーンアップするはずです。高倍率での「数百万タップ」は高い「フィルター品質」を保証します。
- 用途: より高倍率の整数倍アップサンプリングに適していますが、CPUへの負荷は指数関数的に増加します。しかし、非ボーカルのあらゆる音楽ジャンルに対して、理論上はより良い互換性を持つはずです。
- sinc-MG
- 解説: ガウス窓を用いた時間領域で一定の特性を持つフィルターで、16倍のPCM出力レートで100万タップに達します。極めて高い減衰量を持ちます。sinc-Mxにガウス窓を適用したものと見なせます。ガウス窓は、非常に低いリンギングと滑らかなロールオフで知られています。
- 特徴: ガウス窓は非常に滑らかで自然なサウンドをもたらし、リンギングを最小限に抑えることで優れたトランジェント処理(より少ない尾引き、より自然な立ち上がり/減衰)を実現します。音色は非常に有機的で、空間情報も良好に保持されるはずです。「極めて高い減衰」は非常にクリーンな背景を保証します。これは先に議論したガウス系フィルターの利点と一致します。
- 用途: より輪郭がはっきりし、純粋な音色を好むオーディオファイルはこのフィルターを試してみる価値がありますが、poly-sincシリーズの方が技術的に優れているという同じ問題に直面します。
- sinc-MGa
- 解説: アポダイジング特性を持つ、ガウス窓を用いた時間領域で一定の特性を持つフィルターで、16倍のPCM出力レートで100万タップに達します。極めて高い減衰量を持ちます。
poly-sinc-gauss-xla
に似ています。これはSinc-Mの最高峰バージョンであり、ガウス窓、時間領域で一定の設計、数百万のタップ、そしてアポダイジング特性を兼ね備えています。 - 特徴: 最も洗練され、自然なフィルターの一つであるはずです。ガウス窓(滑らかさ、低リンギング)、時間領域で一定の設計(一貫した性能)、アポダイジング(ソース録音の歪み除去)、そして高いタップ数(精度、減衰)の組み合わせは、サウンドの極致を目指すものです。
- 用途: ブログ主も正直、混乱してきました。構造的には
poly-sinc-gauss-xla
とほぼ同じように見えます。sinc-MGaは、おそらくPolyphase(多相)技術を使わずにフィルターを構築しているため、理論上はpoly-sincよりもCPU使用率が高くなるはずです(効率が低いため)。
- 解説: アポダイジング特性を持つ、ガウス窓を用いた時間領域で一定の特性を持つフィルターで、16倍のPCM出力レートで100万タップに達します。極めて高い減衰量を持ちます。
- sinc-L
- 解説: 可変タップ数を持つSincフィルター。タップ数は「131070 × 変換比率」となります。極めて急峻なカットオフと平均的な減衰量を持ちます。長いSincフィルターとして、その可変タップ数はSinc-Mに比べて大幅に増加します(1xで131,070タップ、2xで25万タップ以上など)。
- 特徴: 非常に急峻なカットオフは優れた周波数精度を保証し、非常に繊細で解像度の高いサウンドをもたらします。しかし、「平均的な減衰」という特性のため、帯域外ノイズやエイリアシングの抑制効果は、他の特化したフィルターほど理想的ではありません。
- 用途: ディテールに優れたフィルターですが、CPUへの負荷はSinc-Mシリーズより高く、アップサンプリング倍率が高いほど顕著になります。ボーカルよりもクラシック音楽への適性が高いかもしれません。
2. DSD シリーズ
海外の情報を探したところ、sinc-short
、sinc-medium
、sinc-long
の3つはDSDシリーズに属し、PCMからDSDへのアップサンプリングに最適化されているようです。また、整数倍アップサンプリングという厳しい要件もありません。
- sinc-short
- 解説: 可変タップを持つ比較的短いSincフィルターで、柔軟な設計がされており、特にDSD(SDM)出力に最適化されています。おそらく、シグマデルタ変調を行う前に、より高い中間PCMレート(16xに一度アップサンプリングされる)を経る2段階処理を使用しています。
- 特徴: このシリーズで最も負荷が低いフィルターですが、減衰が中程度であるため、短いフィルター長と相まって、背景はあまりクリーンにならず、音質は影響を受ける可能性があります。
- 用途: PCMからDSDへアップサンプリングしたいが、CPU性能があまり高くない場合に、選ばざるを得ない選択肢です。
- sinc-medium
- 解説: 中程度の長さを持つSincフィルターで、可変タップ数を持ちます。同様に16xの中間PCMレートを経ます。減衰速度は中程度です。
- 特徴: 長さから見て、明らかにshortよりは優れています。また、ボーカルにとっては、longよりもこちらの方が良いかもしれません。
- 用途: 簡単に言えば、shortより良く、longよりは劣る、という位置づけです。このシリーズのフィルター選択は、基本的にCPU性能次第でしょう。
- sinc-long
- 解説: 長いSincフィルターで、可変タップ数を持ちます。同様に16xの中間PCMレートを経ます。注意点として、このシリーズのフィルターはすべて「中程度の減衰速度」です。
- 特徴: これら3つのDSD最適化Sincフィルターの中で最高の音質を提供します。より長いフィルター長により、優れたディテール、より良い空間の明瞭さ、そしてよりクリーンな表現が期待できます。しかし、「中程度の減衰」は依然として音質を制約する要因です。
- 用途: 大編成のオーケストラなどには、この3つの中では最も適しているでしょう。
V. まとめ
現代のHQPlayerのバージョンでは、「Poly-Sinc」シリーズ(例:poly-sinc-ext2
, poly-sinc-gauss-xla
, poly-sinc-long-ip
など)が主流であり、推奨される高性能フィルター群です。これらはSinc関数の理想的な特性と、多相構造による高い効率性を兼ね備えています。一方、リストにある「Sinc-」で始まるフィルターの多くは、初期のバージョンであったり、異なるサウンドの好みやCPU負荷に対応するための選択肢として提供されているものかもしれません。この部分は非常にブラックボックスで、ブログ主も多くの文献を読み漁りましたが、完全には解明できていない部分も多々あります。もし詳しい方がいらっしゃいましたら、ぜひコメントでご教示いただけると幸いです。
また、皆さんが最終的に選んだフィルター、DAC、CPUの構成をコメントで共有していただけると、他の方々の参考になるかと思います。ぜひ、ご協力をお願いします。

